フランチャイズ経営で最も悩ましいのが人件費です。限られた資金で営業を安定させるには、初期費用から日々の運転資金、長期的な人員戦略までを見通して無駄を減らす必要があります。ここでは実務で役立つ視点に絞り、すぐ使える考え方と数字の目安をお伝えします。
フランチャイズの人件費を最短で抑えるポイント
初期投資と運転資金のバランスを見直すだけで、開業後の負担を大きく減らせます。人件費は固定費になりがちなので、可変化できる部分を増やすことが重要です。まずはどこから削るか、どこは維持するかを区別して計画を立てましょう。
初期費用に含まれる人件費の注目点
開業準備の段階で発生する人件費は見落とされがちです。内装業者や研修講師、開店前のスタッフ教育などが該当します。これらは一時的な費用ですが、予算を超えると運転資金圧迫の原因になります。
まずは見積りを細かく取り、何が必須で何が削減可能かを仕分けしてください。研修は期間短縮やオンライン化でコストを落とせますし、内装の一部を自分たちで手配することで人件費を抑えられます。開店前に必要な人員数を過大に見積もらないことも重要です。
また、開店日までのアルバイト雇用は一時的に増えるため、契約条件を明確にして無駄な残業や契約更新を避けるようにしてください。補助金や支援制度が使える場合もあるため、自治体の支援情報は早めに確認しましょう。
運転資金で必要な人件費の目安
運転資金の中で人件費が占める割合を算出しておくと資金繰りが楽になります。通常、事業開始直後は売上が安定しないため、想定より多めに必要になります。一般的には3〜6か月分の人件費を運転資金として確保するのが目安です。
ここでの人件費には給与だけでなく、社会保険、交通費、雇用保険料、研修費なども含めます。月次の固定支出として何があるかリストにし、最悪期のキャッシュアウトを試算してください。余裕がない場合は、シフトを柔軟に組める短期雇用や派遣を部分的に使う選択肢を検討してください。
資金計画は売上シナリオ別に作成すると実用的です。楽観・通常・悲観の3パターンで人件費の負担を比較しておくと、資金不足時の対応が早くなります。
売上に対する人件費率の目安
業種によって適切な人件費率は異なりますが、目安を把握しておくことが欠かせません。多くのフランチャイズでは売上に対する人件費率を20〜35%程度に収めることが望ましいとされています。
まずは自店舗の業態に近い業界平均を調べ、自店の売上想定に対する給与総額を割り出してください。固定シフトの割合が高い場合は比率が上がりやすいため、時間帯別の売上見込みと人員配置を照らし合わせることが重要です。
また、残業や深夜手当が発生しやすい時間帯はコストが膨らむので注意してください。季節変動や繁忙期を踏まえた年間平均で評価することで、より現実的な人件費率が見えてきます。
すぐ取り組める低コスト施策3つ
- シフトの見直し
ピーク時間に人員を集中させ、閑散時間は最小限にすることで稼働率を上げられます。
- 研修のオンライン化
一部の研修を動画やマニュアル化して繰り返し使えるようにするとコスト削減になります。
- 外部リソース活用
清掃や経理などは外注化して固定費を可変費に変える方法があります。
これらは工夫次第で短期間に効果が出る施策です。導入前に効果とコストを比較して優先順位をつけてください。
長期的な人員計画の考え方
中長期で見ると、人材の質や定着率もコストに直結します。育成にかかる費用と離職による代替コストを比べて、どちらが有利かを判断してください。適切な評価制度を作り、役割に応じた採用と育成計画を立てることが重要です。
人員計画は売上成長シナリオと連動させ、需要に応じた増員・削減のタイミングを設計してください。自己資金に余裕がない場合は、パート比率を高めて変動費化する一方で、コア業務は正社員で固めるなどのバランスを検討してください。
人件費の中身と計算方法
人件費は単純な給与だけではありません。月々の支払額に加え、ボーナスや法定福利費、採用や教育にかかる費用まで含めて計算する必要があります。全体像を把握してから節約策を講じるとミスが少なくなります。
毎月の給与と各種手当の扱い
毎月の給与は基本給に各種手当を加えた総支給額で考えます。通勤手当、役職手当、資格手当、深夜手当などは月次コストとして計上する必要があります。給与は社員ごとに項目を分けて管理すると月次の変動を把握しやすくなります。
税金や社会保険の差引後の手取りに注目しがちですが、経営側は総支給額とそれにかかる事業負担分を基に損益計算をしてください。給与の増減が直接キャッシュフローに影響するため、繁忙期や閑散期の見込みに合わせてシフトや手当の見直しを行ってください。
また、時間外労働の管理を徹底すると無駄な支出を減らせます。労働時間を可視化するツールの導入も検討するとよいでしょう。
賞与や退職金の計上方法
賞与や退職金は発生時に大きな支出になるため、月次の費用として積み立てておく方法が一般的です。賞与は過去の支給実績や経営方針で変わりますが、予算化しておかないと資金繰りが厳しくなります。
退職金は就業規則や労使協定で決められるため、見積もりをして負債計上するか、積立を行うかを判断してください。小規模事業の場合、退職金制度を設けずに代わりに別の福利厚生で補う選択もありますが、将来的な支出リスクは検討しておく必要があります。
計上方法を明確にしておくことで、会計上のブレを減らし、資金計画が立てやすくなります。
法定福利費の内訳と負担割合
法定福利費は健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険などで構成されます。事業主負担分は給与に対して一定割合で発生し、業種や雇用形態によって負担率が変わる場合があります。
月次の見込みに含めるべきは事業主負担分だけでなく、将来の保険料率変動も念頭に置いておくことです。新規雇用が増えると保険料の事業負担も増えるため、採用計画と同時に福利費の試算を行ってください。
正確な負担割合は最新の法令や社会保険の料率を参照し、会計ソフトや税理士に確認することをおすすめします。
採用費用と研修費の算入方法
採用費用は求人広告費、面接にかかる時間コスト、採用代行手数料などを含みます。採用が成功するまでのコストを一件当たりで算出し、その後の離職率を踏まえて年間コストを見積もると現実的です。
研修費は外部講師費、教材費、研修中の人件費(受講時間分)を計上してください。新人教育に長期間を要する場合、その分の生産性低下もコストとして計上する必要があります。集中的な研修を短期間で行うか、段階的に行うかで費用構造が変わりますので、事前に方針を決めておくとよいでしょう。
売上比で見る人件費率の計算式
売上比での人件費率は、次の式で算出します。
人件費率(%)=(人件費合計 ÷ 売上高)× 100
ここで人件費合計には給与、手当、法定福利費、賞与の積立分、採用・研修費などを含めます。月次・季節別の売上変動を加味して算出することで、より実情に即した比率が出ます。
率を算出したら、業種別の目安と比較して過剰な部分を特定してください。目標値を設定し、定期的に見直すことで改善が進みます。
業種別の人件費目安とモデルケース
業種によって労働集約度や稼働時間、繁閑の差が大きく、人件費の目安も変わります。自店舗に近い業種の数字を参考に、採用やシフト設計を行いましょう。
飲食店での人件費率の目安
飲食店は人手がかかる業態のため、売上に対する人件費率は比較的高めです。一般的には25〜35%を目安に考えると無理が出にくくなります。店舗形態(カフェ、居酒屋、ファーストフード)によって差が出る点に注意してください。
時間帯ごとの来客変動が大きいため、ピーク時に集中配置し、閑散時間は最小限の人員に絞ることで効率化が図れます。調理とホールの兼任や、調理工程の簡素化も有効ですが、サービス品質の低下には配慮してください。
小売業での人員配置例
小売業は営業時間が長くシフト管理が鍵になります。週末やセール時に人員を厚くする一方、平日の午前中などは最小人員で運用することが多いです。店舗面積やレジ台数、商品の品出し頻度に応じて必要人数を算出してください。
レジや接客に加え、バックヤード業務の負担も考慮する必要があります。パート比率を高めて変動費化する方法が有効ですが、接客品質を維持するための教育は欠かせません。
サービス業の時給と稼働率の考え方
サービス業は対人時間が多く、時給と稼働率のバランスが重要です。高時給で質を確保するのか、低コストで人を回すのかは業態・ブランドにより判断が分かれます。時給を上げることで離職率が下がり教育コスト低減につながるケースもあります。
稼働率はシフト管理で改善できます。オフピークの業務を整理してピークへのリソース配分を最適化し、待ち時間や過度な残業を防いでください。
業種間で差が出る要因
差が出る要因は主に以下の通りです。
- 労働集約度(手作業や接客の頻度)
- 営業時間や休日の多さ
- 必要な専門性(資格や技術)
- 設備投資による自動化の度合い
これらを踏まえて、同業他社と比較する際は単純な人件費率だけでなく、業務内容や提供価値も合わせて検討してください。
モデルケースでの損益分岐の見方
モデルケースで損益分岐を計算すると、人件費がどれだけ売上に影響するかが明確になります。固定費(家賃・人件費固定分)と変動費(材料・変動人件費)を分け、月商がどこまで落ちても耐えられるかを試算してください。
人件費を削るだけでなく、売上を伸ばす施策と合わせて検討することが重要です。両面から改善策を打つと安全域が広がります。
運用で人件費を下げる工夫
運用段階での改善は継続的な効果が期待できます。日々のシフト運用、外注化の見直し、自動化の導入などは業務に合わせて段階的に進めてください。
シフト最適化で残業を抑える方法
まずは現状のシフトと実績を比較し、過剰配置や不足の時間帯を洗い出します。予測に基づくシフト作成と、出勤前の連絡体制を整えることで急な欠勤対応が楽になります。
残業が発生しやすい業務は業務分担を見直して短縮できないかチェックしてください。業務手順の標準化やチェックリスト化も残業削減に効果的です。
パートと正社員の比率を調整する
パートタイム比率を高めると、繁閑に応じた人員調整が容易になります。一方でコア業務やマネジメントは正社員で確保し、ノウハウの蓄積と品質維持を図ってください。比率は業態や営業時間を踏まえて決めるとよいでしょう。
外注や派遣で固定費を削減する
経理、清掃、人材紹介などは外注化で固定費を変動費化できます。外注先と契約する際は品質管理とコスト比較を行い、トライアル期間を設けてから長期契約に移ると安心です。
自動化ツールで作業を省力化する
POS、勤怠管理、予約システムなどの導入で作業負担を減らせます。初期投資はかかりますが、長期的に見れば人件費削減とミス削減につながります。導入前に導入効果を試算してください。
賃金制度で成果を反映させる
時間給だけでなく、成果やシフト貢献度を反映する賃金制度にすると効率的な働き方を促せます。導入は慎重に、透明性のある評価項目を設定して運用してください。
業務効率を高める教育の進め方
教育はコストですが、作業効率向上と離職率低下に寄与します。段階的な研修計画とOJTを組み合わせ、業務マニュアルを整備して属人化を避けてください。教育効果は数値で追跡すると評価しやすくなります。
採用と定着で無駄を減らすしくみ
採用と定着の改善は採用費や教育費の無駄を減らします。適切なチャネル選びと面接基準、入社後のフォローが重要です。
採用チャネルの選定ポイント
採用チャネルは費用対効果で選んでください。求人媒体、紹介、SNS、学校との連携などチャネルごとの応募数と採用率を記録して評価しましょう。地元密着型のフランチャイズでは地域の求人媒体やコミュニティが有効なことが多いです。
面接で見極める評価基準
面接ではスキルだけでなく勤務可能時間や長期的な意欲、職場との相性を確認してください。評価基準を明確にして面接官間で共有すると、採用ミスマッチが減ります。
入社後の早期戦力化プラン
入社直後の数週間で基本業務に慣れてもらえるよう、段階的な業務割り当てとチェックポイントを設けてください。メンター制度を用意すると安心感が増し、早期離職を防ぎやすくなります。
離職を減らす評価と待遇の工夫
公正な評価と小さな報酬・表彰制度を設けることでモチベーションが維持できます。待遇面では柔軟なシフトや福利厚生の充実が有効です。定期的な面談で悩みを早期に把握する仕組みも取り入れてください。
定着率を高める職場づくりの要素
職場環境、コミュニケーション、評価制度、働きやすさの4点が鍵です。風通しの良い職場と明確なキャリアパスを示すことで、長期的な定着につながります。
労務管理と法令対応でリスクを避ける
法令違反は罰則や訴訟リスクを招き、結果的に大きなコストになります。労働時間管理や最低賃金対応など、基本を押さえて運用してください。
労働時間と残業の正しい管理
タイムカードや勤怠システムで出退勤を正確に記録し、残業申請のルールを明確にしてください。管理者が定期的に記録をチェックする体制が必要です。未払い残業は重大なリスクになるため、早めに対策を講じてください。
最低賃金と地域別対応の注意点
最低賃金は地域ごとに変わるため、複数店舗を運営する場合は地域別の規定を守る必要があります。改定情報を常に確認し、時給や福利厚生の見直しを行ってください。
社会保険と雇用保険の負担調整
従業員の雇用形態により保険適用が変わります。社会保険加入基準を満たす場合は事業主負担が発生するため、雇用条件設計時に影響を把握しておいてください。保険料率の改定情報は早めに対応することが大切です。
人員整理時の手続きと支援制度
人員整理を行う場合は労働法に基づく手続きや説明義務、場合によっては労働局への相談が必要になります。早期退職制度や再就職支援の活用で双方の負担を軽減できるケースがありますので、外部の専門家にも相談してください。
労務トラブルを防ぐ記録と証拠保全
労務問題が起きた際に備え、勤務記録や評価記録、面談メモなどを体系的に保管してください。証拠が整っていると解決が早まります。記録は社員のプライバシーに配慮しつつ、安全な場所で管理してください。
人件費の見直しでフランチャイズ収益を安定させる
人件費の見直しは単なるコストカットではなく、事業の持続性を高めるための投資でもあります。運用面と採用・定着の両面から改善を進め、法令遵守を徹底することで安定した収益基盤が作れます。まずは現状を数値で把握し、優先順位をつけて取り組んでください。

